DXについて初心者が知っておくべき5つの基礎知識

DXについて初心者が知っておくべき5つの基礎知識

近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)が企業の競争力を高めるために必要不可欠な要素となっています。DXを取り入れているのは、IT業界にとどまらず小売り業や製造業、観光業など多様な業界で推進されています。

DXを取り入れ、企業競争に勝ちぬくことを考えるのであれば、既存のIT システムの現状を踏まえた課題を把握・分析し戦略を見直し、反映することが求められています。そのためには、まずDXの基本を知る必要があります。

この記事では、DXについて初心者が知っておくべき基礎知識を網羅的にまとめたものを解説します。

DXとは何か

DXの定義

DXとは、「デジタルトランスフォーメーション」の略称で、現代社会において、ICT(情報通信技術)を活用し、ビジネスのプロセスや仕組み、人々の生活や社会を革新することを指します。具体的には、AI(人工知能)、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、などの技術を活用し、よりスマートなビジネスや社会を実現することを目指します。

DXの目的

DXの目的は、業務プロセスの改善や新たな価値創造を通じて、企業の成長や競争力の向上、社会の発展を促すことです。DXを導入することで、競争優位性の獲得、ビジネスプロセスの最適化、業務の迅速化など、さまざまなメリットが得られます。

DXを急いで推進する背景

国が力を入れてDXを推進している背景の一つに、「2025年の崖」と呼ばれる問題があります。

「2025年の崖」とは、2018年9月に公表された「DXレポート」注1で、既存システムの老朽化などがDXの障害・壁となる時期を表した言葉です。2025年には、基幹システムの6割以上が21年以上の運用期間を迎えることになります。

過去のIT技術で構築したものが技術面での老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化するなどのことをレガシーシステムの問題といいます。既存システムのブラックボックス化は、市場変化に柔軟に対応できなくなる恐れがあり、デジタル競争の敗者になる誘因となります。DXの進み具合については、あらゆる面で米国と比べるとその差が大きく開いています注2

また「DX白書2023」注2では、レガシーシステムの状況を尋ねた調査報告(2022年)があり、回答企業の41.2%が(「半分程度がレガシーシステムである」「ほとんどがレガシーシステムである」)と答えていました。いまなおもレガシーシステム刷新に遅れがあるといえます。

2025年までにレガシーシステム刷新を行えなかった場合に懸念されるシナリオとして、以下のような問題を挙げています。

  • 市場の変化に合わせて、柔軟かつ迅速にビジネスモデルを変更できず、デジタル競争の敗者に
  • システムの維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上に技術的負債

  • 保守運用の担い手不在で、サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失等のリスクの高まり

このようにDXを急いで推進する背景には、デジタル競争の激化、維持管理費の高額化、保守運用の担い手不在に係るリスクといった要因があります。DXに取り組むことで、業務プロセスの最適化や新たなビジネスモデルの構築が可能になり、競争優位性の獲得につながります。

注1(参考 DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~, 経済産業省)

注2(参考 DX白書2023, 独立行政法人情報処理推進機構)

DXがもたらすメリットとは

DXの導入により、企業などの組織にとって多くのメリットがもたらされます。DXによって企業にどのような変化がもたらされるのか、そのメリットの一部の例を紹介します。

競争優位性の獲得

DXを導入することで、ビジネスプロセスの自動化やAI・IoTの活用などにより、業務の効率化が図れます。これにより、競合他社よりも迅速かつ効率的なサービスを提供することができ、市場競争で優位性を獲得することができます。

ビジネスプロセスの最適化

DXによる自動化により、人手によるヒューマンエラーの発生を減らすことができます。また、システムによるデータの蓄積と分析により、業務プロセスの改善を行うことができ、より効率的で正確なビジネスプロセスを構築することができます。

BCP対策(事業継続計画)を強化

BCP対策とは、企業が業務を継続するために必要な事業継続計画のことです。天災や感染症のパンデミック、システム障害など、予期せぬ事態に備えて企業が事業を継続するための対策を取ることを指します。DXを進めることで、業務のリモート化やデータのバックアップなどが容易になります。

CX(カスタマーエクスペリエンス)の向上

DXを導入することで、顧客とのコミュニケーションやサービス提供を24時間365日行うことを可能にします。また、AIによる個別の顧客対応や、顧客の行動履歴に基づいたマーケティング施策の実行などにより、顧客体験を向上させることができます。

経費の削減

DXによる業務プロセスの自動化や、ビッグデータ解析により、業務効率が向上することで、人件費やコストの削減が可能になります。また、業務プロセスの最適化により、不必要な業務を排除し、無駄なコストを削減することができます。

データの分析と活用

DXによって蓄積されたデータを分析し、ビジネスの意思決定に活用することができます。例えば、ビジネスプロセスの改善やマーケティング戦略の策定など、より効果的な意思決定が可能となります。

業務の迅速化

DXによる自動化により、業務プロセスが迅速に処理されることで、業務の迅速化が図れます。また、AIなどの技術により、業務の自動化や高度化が可能になり、業務の迅速化とともに、業務の質の向上も期待できます。

DXを実現するために必要な技術とは

DXを実現するためには、多くのデジタル技術が必要ですが、その中でも特に重要なのが「ABCD技術」注3です。「ABCD」とは、DXの実現するために必要な技術や要素の頭文字を抜き出したものです。B、C、Dについては複数のものを表し、人によっては異なる意味で表している場合があります。ABCDが次世代技術として選択されたのは、ビジネスにおけるデータ駆動型意思決定との関連性が高く、相互の接続性があるからとされています。「ABCD」の内容について紹介します。

注3(参考:Shahriar Akter1 · Katina Michael2 · Muhammad Rajib Uddin 1 ·
Grace McCarthy 1 · Mahfuzur Rahman 3, 2020,Transforming business using digital innovations:the application of AI, blockchain, cloud and data analytics, Springer Science+Business Media, LLC, part of Springer Nature)

A: AI(人工知能)

AIとは、機械学習やディープラーニングなどの技術を利用して、人工知能を実現するための技術です。AIを活用することで、自動化や高度な分析などが可能になり、ビジネスプロセスの改善につながります。

活用例

  • AIによる医療画像診断
  • AIチャットボットを活用したカスタマーサポート
  • AI技術を活用したユーザーの健康データの収集・分析
  • AI技術を活用したスマートファクトリー

B: Big data(ビッグデータ)、Blockchain(ブロックチェーン)

Bについては、注1の論文内においては「ブロックチェーン」を指していますが、他方面においては「ビッグデータ」と指摘するところもあります。両方を簡単に紹介します。

ビッグデータ

ビッグデータとは、単純なデータ処理では扱えないほど大きく、複雑な情報を含んでいます。ビッグデータには潜在的な価値があり、適切に分析することで、ビジネス上の価値を生み出すことができます。

ブロックチェーン

ブロックチェーンとは、分散型のデータベース技術の一つで、取引の記録をブロックと呼ばれるデータの塊にして、それらを時間順につなぎ合わせて連鎖させることで、改ざんや不正操作を防止する仕組みです。

活用例

  • ビッグデータを活かした「交通情報・交通量マップ」の情報提供
  • ビッグデータを活かしたエリア別の混雑予測情報
  • ブロックチェーンを活かしたPOS(販売時点情報管理)で安全な決済を実現
  • ブロックチェーンを活かした物流管理の問題解決に利用

C: Cloud computing(クラウドコンピューティング)

クラウドコンピューティングとは、企業や個人が所有するコンピューターシステムに代わり、インターネットを通じてデータやアプリケーションを提供するサービスです。クラウドを利用することで、スケーラビリティやコスト効率、セキュリティとバックアップなど多岐にわたるビジネスモデルの展開を図ることができます。

活用例

  • クラウドコンピューティングを活かしたオンラインショップ運営
  • クラウドコンピューティングを活かしたSaaS(Software as a Service)の提供
  • クラウドコンピューティングを活かしたクラウドストレージ上でのデータ管理

D: Data Analytics(データ分析)

データ分析とは、企業や団体が保有する膨大なデータから価値ある情報を抽出し、ビジネス上の意思決定や戦略策定に役立てることを目的とした技術・手法です。データ分析は、企業にとってはデータを有効活用することで競争優位性を獲得することができる重要な手段の一つです。

DXの課題とその解決方法とは

DXは、企業がデジタル技術を活用してビジネスを進化させるための取り組みです。しかし、DX推進するにあたり、組織内部にさまざまな課題があります。

まず、企業の文化に変革をもたらす必要があることが挙げられます。これまでのビジネスプロセスを変更することは、現存の文化に従っていた従業員にとっては、戸惑いや不安を引き起こすこともあるかもしれません。そのため、組織全体がDXを推進するためのビジョンと目的を共有することが必要です。これには、コミュニケーションの改善や、学習制度の導入、外部の教育システムなどが必要です。

技術を導入する前には、ユーザビリティやセキュリティの問題についても検討することが重要です。新しい技術を導入する前に、その技術が本当に必要かどうかを慎重に検討し、最適な技術を選択することが必要です。

DXを推進するにあたり、この他にも課題は潜在しています。これらの課題について、今日では多様な立場の外部の企業(ITベンダー、パートナー企業など)と共創注4しあうことが、DXを加速するうえで重要な戦略の一つとなっています。

共創をすることにより、内部にある課題がより明確になり、DX化可能な業務に対し新しい価値(技術、サービスなど)の創出につなげることができます。

注4(参考:経済産業省, 2020年, DXレポート2(中間取りまとめ),https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-2.pdf)

DXを推進するために必要な組織風土とは

企業組織にの中でDXを推進するためには、新しい技術の導入だけでなく、組織風土の改革が不可欠です。例えば、情報共有を進める文化や、失敗を受け入れ、改善する文化が求められます。これらの文化は、DXの推進に必要な組織全体の協力体制を構築するために重要です。

組織風土の改善には、様々な要素がありますが、例えば以下の3つの要素が重要です。

リスクを取る文化

DXは、新しいテクノロジーやアイデアを採用することが重要です。そのためには、失敗を恐れずにリスクを取る文化が必要です。成功した企業は、失敗を許容する文化を築いています。

透明性のあるコミュニケーション

DXを推進するためには、組織内でのコミュニケーションが重要です。情報共有が不十分であれば、プロジェクトの推進が難しくなります。透明性のあるコミュニケーションを行うことで、全員が同じ方向を向き、一丸となってプロジェクトを進めることができます。

継続的な学習と改善

DXは常に進化しているため、組織内での学習と改善が必要です。新しいテクノロジーやアイデアを学び、実践することで、組織全体の能力を向上させることができます。また、失敗から学ぶことも重要です。成功した企業は、継続的に学び、改善しています。

DXが組織に根付いていくためには、土壌となる企業文化や風土のあり方も重要であり、組織のの風土・文化の特性を把握し、DXにふさわしい姿に変革していくことが求められます。

おわりに

今回こちらの記事では、DXについて初心者が知っておくべき5つの基礎知識について網羅的に取り上げ解説してきました。

今日次々と新しいデジタル技術を導入したサービスやビジネスモデルが登場する中、企業が市場競争で生き残っていくためには、DXの推進が必要不可欠となっています。

DXの推進は、顧客や社会のニーズに基づく製品やサービスやビジネスモデルの変革から、業務、組織、プロセス、企業文化・風土の変革まで、幅広い概念を包括しています。

そのため継続学習して、広い視野を持つことが大切となってきます。

DX推進について、より具体的なデータや企業や経営者が実施すべき事項を取りまとめた文書を読んで勉強したいという方は、上記でも紹介しました「DX白書2023」注2や経済産業省の「産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)」注5というページでも有益な情報があります。

興味がある方はぜひチェックしてみてくださいね。

注5(参考:経済産業省, 産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX))